遺伝子組み換え野菜の秘密

遺伝子組換え作物ってどうして嫌いなの?

 

スーパーに置いてある商品に、「遺伝子組換え作物を使用していません」と表記があるように、遺伝子組換え作物は決して好かれていません。どうしてでしょう?多くの方は「なんとなく」であり、「安全かどうか分からないから」というのが実際のところだと思います。ここでは、私たちが普段食べている作物と遺伝子組換え作物を比較することで、「好き・嫌い」はさておき、「知って」いただければと思います。

 

普段食べている作物は、食べる部分を大きく、おいしくなるように改良されてきました。これを「育種」といいます。例えば、キャベツ・ブロッコリー・コールラビーは元々同じ植物で、キャベツは「葉」、ブロッコリーは「花」、コールラビーは「茎」を食べられるように改良されています。トウモロコシの先祖はブタモロコシと言いますが、これは現存し、食べられる量は1000倍も異なります。これらは「掛け合わせ」・「突然変異」などにより作られてきたわけですが、植物に何が起こった結果なのでしょう?答えは「遺伝子の組換え・変異」です。そもそも遺伝する形質を支配するのが「遺伝子」ですので、当たり前と言えば当たり前です。

 

遺伝子組換え作物について話を進める前に、そもそも「遺伝子組換え作物」が何かを定義すると、「ある遺伝子を導入した作物」となります。先ほど、私たちが普段食べている作物が作られた経緯も「遺伝子の組換え・変異」と書きましたが、一体何が違うのでしょう。実のところほとんど違いはありません。結果はどちらも「遺伝子の組換え」であり、プロセスが異なります。

 

まずは「育種」について例を挙げて説明します。

「実が大きい」という良い形質を持つトマトを、実は小さいけど「甘い」トマトに掛け合わせることで、「実が大きく・甘い」トマトが出来ました。これは、「実が大きくなる」遺伝子と「甘くなる」遺伝子を両方とも持ったトマトが出来たわけです。もう少し詳しく説明すると、植物は一般に30,000個程度の遺伝子を持っていますが、「実が大きい」トマトの30,000遺伝子と「甘い」トマトの30,000遺伝子がまぜこぜに組換わった結果、「実が大きくなる」遺伝子と「甘くなる」遺伝子を両方とも持ったトマトを選び出したということになります。

 

この「実が大きくなる」・「甘くなる」といった形質は、トマトに限らず、私たちが食べている多くの野菜でも共通して良い形質と言えます。育種は、トマトはトマトの掛け合わせなどにより、キュウリはキュウリの掛け合わせなどにより作成するため、非常に手間と時間がかかります。そこで新しい育種法として開発されたのが、「分子育種」と呼ばれるもので、「遺伝子組換え作物」の作出方法になります。

 

「分子育種」は、これら「実が大きくなる」・「甘くなる」遺伝子を見つけ出すことからスタートします。勘の良い皆さんはすでに答えを導き出したかもしれませんが、例えば「甘くなる」遺伝子が分かれば、「実が大きい」トマトやキュウリやジャガイモに、それぞれ入れてあげれば良いわけです。正にこれが「遺伝子組換え作物」の作出方法となります。原理は至って簡単なわけですが、この有用な遺伝子を見つけ出すことが非常に大変で、多くの研究者が日夜努力しています。

 

次に「遺伝子組換え作物」の安全性ですが、気が遠くなるほど徹底的に調べられて安全が確認された後、ようやく商品となります。実際に作物の開発にかかる時間と同じか、それ以上かかります。遺伝子導入により作物に起こる変化としては、遺伝子はタンパク質を作る設計図ですので、タンパク質が増えます。先ほどの例で言うと、「甘くなる」というのは「糖を作る遺伝子」を導入した結果、「糖を作る酵素(タンパク質)」が増えて、「糖」が増えます。タンパク質はアレルゲンともなるため、導入した遺伝子由来のタンパク質がアレルゲンとなるのか、あるいは結果として既知のアレルゲンが増えていないか、動物(マウスなど)に与えた際にアレルギーなどを引き起こさないか等が調べられます。ここまで安全性を確認した後に商品となるのは医薬品くらいです。

 

一方、「育種」により作成された作物は、「遺伝子組換え作物」のような安全性の確認は必要とされません。掛け合わせはこれまでずっと行われてきたことですし、突然変異についても「自然に起こりえる」という前提があるためです。先の例で言うと、「実が大きくなる」・「甘くなる」遺伝子が組換わることによって作成されたわけですし、30,000もの遺伝子同士が組換わっているため、実際に起こっている遺伝子レベルの変化としては、分かっている遺伝子(1個あるいは数個)を導入した「遺伝子組換え作物」と比較して、「育種」では圧倒的に大きな変化を伴います。

 

いかがでしょうか。ここではどちらが安全というお話はしませんが、少しは遺伝子組換え作物について「知って」いただけたのではないかと思います。

「味」や「栄養」に関わる遺伝子があるのはもちろんのこと、「干ばつ(乾燥)」・「冷害」・「凍結」・「高温」・「塩」といった、近年の激しい気候変動による作物の不作を少しでも緩和する遺伝子なども見つかってきています。2050年には地球人口は90億人に達する見込みです。現在の食生活を維持しようとすると数倍の食料生産が必要ですが、育種をより効率的に進める遺伝子組換え技術は、非常に有効な手段です。

 

太治輝昭

東京農業大学

応用生物科学部

バイオサイエンス学科

 

編集部より質問:

ということは、遺伝子組み換え野菜とは、何となくSFなどで想像してしまう人工的に?生み出した化け物などとは関係がなく、昔からずっと行われてきている掛け合わせとやってることは同じということでしょうか?

 

答:

簡単に言うとそういうことになります。